シトロエンの「3輪走行」は、ハイドロニューマチック・サスペンション搭載車ならではの伝説的な機能として語られます。
しかし、実際にどのような条件で可能なのか、どんな車種で実現できるのか、誤解も多いテーマです。
専門的な視点で、その実態と注意点を詳しく解説します。
シトロエンが、3輪走行ができる理由と仕組みについて。
シトロエン DSの高い安定感が伝わってくる。ハイドロニューマチックは時速120km/hからタイヤのバーストがあったとしても、真っ直ぐにフルブレーキングで止まれる。単に乗り心地が良いだけでななく、いざと言う時にも‼︎ 3輪走行が出来る。 pic.twitter.com/wsu8E8s6Ic
— Lion (@onyx_ling) October 22, 2014
シトロエンのハイドロニューマチック・サスペンションは、窒素ガスと専用オイルを使った油気圧式の独自システムです。
これによって、車高調整が可能となり、特定の条件下で3輪走行が実現します。
ハイドロニューマチック・サスペンションの基本構造
シトロエン独自の「ハイドロニューマチック・サスペンション」は、金属スプリングの代わりに窒素ガスと専用オイルを用いた油気圧式サスペンションです。
スフィアと呼ばれる球体に窒素ガスとオイルが封入され、これがスプリングとショックアブソーバーの役割を担います。
油圧ポンプで加圧されたオイルがシリンダーに送り込まれ、車高や乗り心地を調整します。
3輪走行が可能となる仕組み
現行型のシトロエン C5でも3輪走行が可能。もう、シトロエンの代名詞ともなっている油圧制御サスペンション、ハイドラクティブ。簡単にいうと常に油圧と窒素ガスとで車体を水平に保とうとするシステム。ジャッキなしでタイヤ交換も出来るし(^^) pic.twitter.com/eutTqe4zcr
— Lion (@onyx_ling) October 22, 2014
ハイポジション(車高最上位)
ハイドロシトロエンの車高調整機能で「ハイポジション」にすると、サスペンションシリンダー内のオイル容量が最大となり、左右のシリンダーがほぼ満タン状態になります。
オイルの流れが制限される
ハイポジションでは、シリンダー内のオイルが満たされることで、タイヤのない側のハブが地面に接地せず、宙に浮いた状態を維持できます。これにより、3輪での自走が可能となります。
左右の油圧ラインの関係
ノーマルポジションでは左右の油圧ラインが繋がっているため、片輪がなくなるとオイルが反対側に流れ、ハブが地面に着いてしまい3輪走行は難しくなります。
ハイポジションではこの流れが制限されるため、片輪がなくても車体が傾かずに走行可能となるのです。
路面追従性と車高制御
サスペンションは路面の凹凸に応じて上下動し、オイルがスフィアを通過しながら窒素ガスを圧縮・膨張させることで、柔軟な乗り心地と車高維持を両立します。
ハイトコレクターという装置が車高を自動で修正し、荷重や乗員数が変わっても一定の車高を保ちます。
3輪走行の条件と限界
実際に3輪走行ができるのは、ハイポジションに設定し、かつ車体の重量バランスが適切な場合のみです。
特にDSやXantiaなど、フロントヘビーなモデルで成功例が多く報告されています。
ノーマルポジションでは、油圧が左右で自由に移動するため、片輪がなくなるとその分のオイルが反対側に流れ、ハブが地面に着いてしまいます。
前輪を外しての3輪走行はバランスの関係で現実的ではなく、主に後輪側での応急的な走行が可能とされています。
実用面での注意
シトロエンC6の左後輪脱輪! 雪で覆われて見えなかった側溝にハマる。しかしここからがハイドロシトロエンの真骨頂、3輪でも走行できるので脱出可能なのは「なるほど・ザ・ワールド」で実証済み。しかし雪で前輪がスリップして脱出できず!(涙) 結局みんなから押して貰って脱出できました。(汗) pic.twitter.com/oQALXOgTaC
— EVE (@EVE_SATOH) March 7, 2022
3輪走行はあくまで非常時の応急的な機能であり、日常的な走行や公道での使用は想定されていません。
路面状況や車体バランスによっては、3輪走行が難しい場合もあります。実際には、側溝脱出などの場面でも、通常の方法(スコップや雪を使ったスロープ作成)が現実的な対応となります。
シトロエンのハイドロニューマチック・サスペンションは、油圧とガスの組み合わせによる高度な車高制御と路面追従性を実現しています。
3輪走行はハイポジションでのみ可能で、油圧ラインの仕組みと車体バランスが重要なポイントです。
ただし、これはあくまで非常時の技術的特徴であり、日常的な実用性を期待するものではありません。
実例・エピソード
1962年、フランス大統領シャルル・ド・ゴールが乗車中に襲撃され、DSが後輪パンクにもかかわらず3輪で走行し脱出した逸話は有名です。
また、アメリカのディーラーであるアンドレ・ガルニエ氏がDSの片輪を外して3輪走行を披露し、地元警察や裁判所でその安全性を証明したというエピソードもあります。
イベントやクラブミーティングでは、実際に3輪走行を再現するデモンストレーションも行われています。
実際に3輪走行が可能な動画は複数存在し、特にシトロエンDSやXantiaでのデモンストレーションが有名です。
中にはXantiaを時速200km近くで3輪走行させた例も報告されています。
これは、DSのようなフロントヘビー(前荷重が全体の2/3)な車種でないとバランスが取れず、現実的ではないためです。
どの車種が3輪走行できるのか
3輪走行が実際に可能とされるのは、シトロエンDS、GS、Xantiaなど、ハイドロニューマチック・サスペンションを搭載し、かつ重量バランスが適切なモデルです。
特にDSのようなフロントヘビーな車種で成功例が多く、全てのハイドロ搭載車で、可能というわけではありません。
シトロエンの3輪走行車は、新車で購入できるか?
3輪走行ができるシトロエンは、現在新車では販売されていません。
中古車市場でDSやXantiaなどのハイドロ搭載モデルを探すことは可能ですが、年式が古く、コンディションや整備履歴が重要なポイントとなります。
また、3輪走行はあくまで非常時の応急的な機能であり、日本の公道で3輪状態のまま走行することは道路交通法上認められていません。
そのため、実用的な目的や日常利用には全く向かず、あくまで「万が一の際の技術的特徴」として理解してください。
購入を検討する場合も、専門店やフランス車に強い整備工場で現車確認・点検を受けることが必須ですし、部品供給やメンテナンス体制も事前にしっかり確認しましょう。
3輪走行の現実的な使い方。
実際の3輪走行は、日常的な利用を想定したものではなく、あくまで緊急時の応急的な機能です。
例えば、雪道で片輪が側溝に落ちた場合、ハイポジションにして3輪で脱出できる可能性がありますが、路面状況や重量バランスによっては難しいケースもあります。
実体験としては、雪や土を踏み固めてスロープを作り、通常の方法で脱出する方が現実的という声もあります。
シトロエンが、3輪走行ができる理由と仕組のまとめ。
- シトロエンの「3輪走行」は、ハイドロニューマチック・サスペンション搭載車のハイポジションでのみ、実現可能。
- 実際に成功例が多いのはDSやXantiaなど一部モデルで、全てのハイドロ車で可能なわけではない。
- 3輪走行は非常時の応急機能であり、日常的な利用や日本の道路交通法上の走行は想定されていない。
- 中古での購入は可能だが、専門的な知識と整備体制が必要不可欠。
シトロエンの3輪走行は、技術的なユニークさと歴史的価値を示す逸話として、今なお多くのファンを魅了しています。
参考記事:シトロエン 公式サイト